米のひと粒が酒のひと雫へと生まれ変わり 流れとなって現れる。 それぞれの生命を紡ぐことが蔵人の仕事だ。
今日も大釜のバナーに火が入る。 その煙の軌跡を辿るように空を眺めていると北へ向かう渡り鳥姿が目に飛び込んできた。 仕込みも後半、春の足音が見えた瞬間だった。
熱々の蒸しあがった米を人肌までに一気に冷まし種を切る。
この仕事に温度計を使うことはなく全ては手の感覚で品温を感じて作業を進める。
人肌の感覚は母の胎内に居た時からの記憶なのかその部分にはぶれがない。
ポコ、ポコ、ポコポコ、プツプツ、ピチピチ、シュワシュワ、シャワシャワ、シャーー、プツプツ、プツ、、プツ、、
タンクに寄り添い弾ける泡の音に耳をかたむける、泡の弾ける音が酵母のつぶやきに聞こえてくる
酒の事は酒に聞くとよくわかるものだ。
蔵人の朝の仕事は麹、酒母、醪の温度を見ることから始まる。
温度とその面を見ることで、昼夜を問わず働き続けている麹菌や酵母が
その日一番の働きができるように手を添えてやる事が蔵人の仕事なのだ。